東京高等裁判所 平成6年(ネ)2253号 判決
以上によれば、被控訴人所有地は、昭和四年に被控訴人所有地と接していた公道部分が北側に移設され、平川ますが旧道路敷地であった控訴人所有地を取得したことに伴い、公路に通じない袋地となったことが認められ、被控訴人は、民法二一〇条により被控訴人所有地につき公路に至るための囲繞地通行権を有しているということができる。
なお、被控訴人は、民法二一三条による囲繞地通行権の成立をも主張するが、被控訴人所有地は、もと一筆の土地が分割・一部譲渡という任意行為によって袋地になったものではないから、被控訴人所有地につき民法二一三条による囲繞地通行権が成立する余地はない。
そこで、被控訴人所有地につき民法二一〇条による囲繞地通行権の範囲について検討すると、前認定の、被控訴人所有地が袋地となった経緯、控訴人所有地と被控訴人所有地の位置関係・控訴人所有地の面積(本件係争地はそのうち約二二・三パーセントを占める。)・昭和四年から今日に至るまでの双方の土地の利用状況・現在の状況、殊に被控訴人所有地が他人所有地に囲まれている状況、公道に至る経路、被控訴人会社本店事務所の所在地及び周辺の状況、被控訴人所有地の買受けの目的・経緯、被控訴人が控訴人所有地を通行する必要性及び右通行による双方の利害得失並びに控訴人において本件囲繞地通行権の範囲につき幅員一・五メートルないし二メートルの限度で通行を容認し、右通路を本件係争地の一部とすることに特に異議を述べていないことその他諸般の事情を総合すると、本件囲繞地通行権の範囲は、袋地である被控訴人所有地の通路としての必要性及び囲繞地である控訴人所有地のため損害を最少のものとするとの見地から、本件係争地のうち別紙物件目録記載の土地部分(幅員二メートル)と定めるのが相当である。
これに対し、被控訴人は、被控訴人所有地を運送業務用の貨物自動車の駐車場として利用し、本件車両等を出入りさせるためには本件係争地全体につき通行を確保する必要があり、かつ本件係争地が囲繞地である控訴人所有地のため損害が最も少ない場所であると主張する。
確かに、囲繞地通行権の場所・幅員・範囲を定めるにあたっては袋地の用途・利用目的及び袋地所有者の囲繞地通行の必要性も考慮に入れるのが相当であり、被控訴人は、前認定のとおり、袋地である被控訴人所有地を運送業務用の貨物自動車の駐車場として利用するために買い受けたものであり、本件車両等の出入りのため本件係争地全体について通行を確保できなければ、右売買の目的を達することができないことが認められる。しかしながら、囲繞地通行権の場所・幅員・範囲は、当該袋地と囲繞地の場所的関係、従前の利用状況、周辺地域の状況等を総合的に考慮して客観的に定められるべきであって、袋地所有者の土地購入目的・利用目的という主観的事情のみを重視してこれを定めるのは相当でないといわなければならない。
前認定のとおり、控訴人所有地と被控訴人所有地は、昭和四年以降数十年にわたって畑として利用され、その間被控訴人所有地の前所有者ないしその借受人は耕作のため控訴人所有地を徒歩又は耕運機で通行し、控訴人も右の限度で通行を容認してきたが、控訴人所有地の一部が通路状に形成されることもなく、平成元年頃からは双方の土地とも荒地となり、被控訴人所有地の前所有者らは年に数回草を刈るために控訴人所有地を通行する以外はほとんど控訴人所有地を通行しなくなっていたところ、控訴人本人及び被控訴人代表者の各供述に弁論の全趣旨を合わせると、被控訴人は、平成三年八月に双方の土地の現況及び被控訴人所有地が袋地であること、被控訴人との事前交渉の結果、本件係争地全体を貨物自動車の通路として利用するには控訴人の相当の抵抗が予想されることを十分知ったうえであえて前所有者から被控訴人所有地を購入したことが認められる。
したがって、被控訴人が、被控訴人所有地の新所有者として双方の土地の従前の利用状況の制約を受けるのはやむを得ないことであって、本件車両の如くその通行に特に幅員の広い通路を必要とする場合には、被控訴人所有地を買い受けるにあたって、事前に控訴人所有地の従前の利用状況等を調査し、公道から被控訴人所有地への通行を確保するなどの措置を講ずべきであったといわなければならない。
そして、囲繞地の通行場所・幅員・範囲が、前記のように袋地の新所有者の土地購入目的・利用目的という主観的事情のみによって左右されるのは相当でないから、被控訴人が運送業務用の貨物自動車の駐車場として利用する目的で被控訴人所有地を新たに取得したからといって、それまで被控訴人と一面識もなく、その土地購入目的・利用目的を知る由もなかった控訴人が、本件係争地全体(幅員五メートル)の通行を受忍しなければならない理由はない。
もとより、本件車両等の公道への出入りのため本件係争地全体を通行することが被控訴人の運送業という業務の遂行に便宜であり、囲繞地通行権の内容も時代の変遷、社会の発展に伴い変容していくものであるが、その範囲は囲繞地のために損害の最も少ない範囲にとどまるべきものであるから、右の点を考慮に入れても、被控訴人の囲繞地通行権の範囲は、本件係争地のうち別紙物件目録記載の土地部分(幅員二メートル)に限られるとするのが相当である。
(時岡 小野 山本)